私は墜ちた。なんども、なんども。彼女の意識の深潭に。そこは、まるで無限にもつづくようで、気でも失ったか、時が止まってしまったかのような、ところ。カリリ、カリリ… 頓て、ちいさくかわいた音が耳朶をうつ。はっと我にかえると、いつのまにか彼女のそばにいる。封の解かれたフードをにぎりしめて。

黒い月 ─── 古代ぐれみけ人は、そうたとえた。こんな歌をのこして。

まあるいまあるい おつきさま
くろくてまあるい おつきさま
おなかがへった おつきさま
かわいそうな おつきさま
いっぱいあげるね おつきさま
しぬまでたべてね おつきさま

それは、なんぴとたりとも逃れることのかなわぬ、世にもおそろしい給餌の呪い。彼女の眼が真円をえがくとき。けして、彼女と眼をあわせてはならぬ。その黒い月をみてはならぬ。愛深き者は、愛にほろぶ。愛深き者は、猫をふとらせる。汝、にゃんこという異形の存在に、ゆめゆめ心を許すことなかれ。