家のことをしていると、ちょっとしたすきをつかれ、兄のやつに外へ出られてしまうことがある。こないだの連載でも書いたが、室内飼いの猫が外へ逃げだしてしまったときに忘れてはならない鉄則、"彼らは遠くへはいかない"。

戸建てか、マンションなら一階にこだわって住みかえてきたおかげで、猫に外へ出られてしまうことについては慣れているが(私の脇の甘さはさておき…)、とはいえ、やはり肝を冷やす。家のなかにしかいないはずの猫が、窓の外にいるときの違和感というか、非日常感というか、バグってる感というか、世界線超越しちゃってる感というか、あのちょっとしたSF体験は、尠からずも猫の主であるならご共感、あるいはご想像いただけよう。

話はここからだ。「まったく、めんどうかけやがって。」そんなふうに、しょうしょう荒々しめにとっつかまえられた彼は、家のなかにつれもどされると、ちょこんと香箱をして、いかにも反省しているかのような、つつましやかな顔をして目をほそめたり、遠くをながめたりする。しかし、私にはわかるのだ。

すました表情の奥にみなぎらせる、充実感を。かくして僕は世界を識るのさ的な、優越感を。あれは反省している顔ではない。なにかを成し遂げたあとの感じのサクセス顔だ。

兄のことはかわいいとおもっている。賢いし、デキる猫だとも。しかし、だからこそ、私はあまり信用していない。彼とはそれぐらいの緊張感をもってつきあうのがちょうどいいのだ。