彼はいつも走っている。歩いている姿がおもいだせなくなるくらいに。けれど、どこかへ行こうとしたり、なにかに追われてそうしているのではない。彼の世界には、地図も時計もない。あるのは「ここ」と「いま」だけ。もてる力のかぎりをつくして、いつまでも寝ようとしないのも、きっと目をとじてしまったら、いまが終わってしまうからだ。ここが消えてしまうからだ。そんな儚い世界を、どうして走らずにいられようか。