病は主から

この三年、育児にかまけて猫たちの世話がおざなりになっている。以前は、まいにちのように使っていたブラシも、どこにしまったか思いだせないこともある。どこか悪そうなら病院に連れていけばいいしと、ついかんたんに考えてしまう。

このあいだ、兄がカーペットに爪をひっかけて踠いていたので外してやると、そのまま床にころがるように倒れこんだ。立ち上がっても、すぐに左側に倒れてしまう。踠いた拍子に前脚でもひねったのだろうと思いたかったが、斜頸と眼振があきらかに脳の異変を感じさせた。

腎不全の悪化に加え、貧血を引き起こしていた。療法食の味気無さが、もともとの食細をさらに細らせ、体重が3.2キロから2.5キロまで落ちていたことに気づけなかった。斜頸と眼振については、耳のなかに異常はなく、貧血によるものか腎不全による神経症状なのか、いずれにせよ手術や投薬での早急な対処はむずかしく、おさまったり、またふらついたりをくりかえしている。なんでもいいから食べさせて、すこしでも体重をもどさなければならない。

貧血とはいえ、爪をひっかけて身動きできなくなったストレスが発作を引き起こしたのだとしたら、その原因をつくったのは、爪切りをどこにしまったか忘れてしまうぐらい爪を尖らせたままにしていた、主だ。猫たちとのこの三年を省みる。

こどもが生まれたことでの環境の変化も、兄のような人間依存のつよい猫にとっては、受け入れがたいものだったのかもしれない。息子には、猫との接し方はよく言い聞かせてあって、それなりに気づかいをしてくれている。けれど、三歳児には理解の限界があって、いまもときどき兄に殴られてひっかき傷をつくる。

猫も古びれば、まわりのことに興味をなくしたり、頑固になってくる。くらしの変化にも、むかしのようには受け入れられないのかもしれない。あんなに人のことが好きで、いつもまとわりついていたのに、ひとりでいる姿をみかけることが増えた。やせ細った兄の枯れ木のような影に、この三年の自分の後ろめたさが見え隠れする。

いつのまにこんなに小さくなってしまったのだろう。腕のなかの兄が、まるで小鳥のように軽い。いまにもどこかに飛び立ってしまいそうで、抱く手にちからが入る。