天高く猫肥ゆる #1

猫暮らし十年のこの冬、ぐれみ家では史上最大の贅沢のかぎりがつくされた。毎朝毎夜、肉や魚介のスープがふるまわれ、その合間にも猫の食指を動かすためならと、粗食の禁忌をやぶりあらゆるものがためされた。それでも日に日に痩せこけていく兄をしりめに、ひとしれず食指を暴走させる猫がいた。

猫の舌を肥やしてよいことなどひとつもない。彼女なんて、ただでさえ腹が肥えているのだから。兄のためにあの手この手の主に、あんたのそのまるこい猫の手でも貸しておくれよてなもんだ。妹がいないすきをみはからって、こっそり兄の給餌のしたくができていたのも、はじめのうち。ことさら食においては、ときに信じられないような能力を発揮するのが、彼女という猫。家のどこにいてもおいしそうな匂いを嗅ぎつける嗅覚。フードのパウチをひらく針がおちるほどの音を聞きわける聴覚。まるでそれを予知するかのように台所にさきまわりする超感覚。

もうなにも見逃さない ――― この冬、彼女はついに台所に住みだした。冬眠のしたくもそっちのけで台所に籠城し、主たちの一挙一動に眼を光らせだしたのだ。キッチンが中心のくらしどころか、キッチンの中心でくらすなんて、ハウスメーカーもまさかのミニマルライフ。かくして、妹は十年にいちどの食の祭典への便乗に成功した。

この猫、手は貸さずとも、腹は貸してくれる。おかげで、兄のたべのこしを捨てる手間が省けたてなもんだが、たべのこしどころか、寝たきりの兄にいっぱつ猫パンチをおみまいしてフードボウルごとぶんどったりもした。十年つれそった相棒が、いまにも死にそうだってのに。でも、それが動物の強さであって、魅力であったりするのかもしれない。彼らは、死ごときでうろたえはしない。