天高く猫肥ゆる #2 – guremike


天高く猫肥ゆる #2

兄の死について、妹はどうおもっているのだろうか。動物に死の概念はないというが、まさか気づいていないとはおもいたくないが、「いつものあいつは?」ぐらいには感じているのだろうか。それとも、もういなかったことになっているのだろうか。いずれにせよ、どうでもよいことなのかもしれない。とくに変化はない。

もとから、いていないようなものだったし、いまもいなくているようなものなのかもしれないし、かたっぽが死んだぐらいで、彼らのふしぎな間柄にそれほど影響はなさそうだ。

妹は子猫のころからそうだった。兄が病院の匂いをつけてくるたびに、怒ったり殴ったりした。そうでなくとも、通りすがりや出会いがしらに気まぐれに一発おみまいしたり、手がだせない窓のむこうの野良猫の代わりにとなりにいる兄にとびかかったりするような、傍若無猫。妹にとって兄はいったいどんな存在なのだろうと、よくおもわされた。

死にぎわにまで殴られるとは、兄もつくづく気の毒なやつだが、当代きっての名女優のような妹のぶれなさには、ずいぶん救われた。変わり果てていく兄をみるのはつらかったが、ふしぎと笑いがたえなかったのは、それ以上に変わり果てない妹のおかげ。彼女は大物だった。肉体的にも、精神的にも。二匹いてよかった。

妹の変化をいうなら、舌が肥えたことぐらいだ。枯れゆく猫に、肥ゆる猫。この不釣り合いのここちよさに、在りし日の頬毛をおもう。兄がのこした未開封のおやつのことは、しばらく妹には内緒にしておこう。